こんなこと、ありませんか?
朝、目が覚めた瞬間にまずスマートウォッチのアプリを開く。「睡眠スコア62、深い睡眠が不足しています」という表示を見たとたん、すっきりしていたはずの体が急に重く感じられる。その夜は「今日こそ80点を超えなきゃ」と布団の中で考えてしまい、目が冴えて、結局スコアはさらに下がる――。
よく眠るために始めた記録が、いつの間にか毎晩の試験のように感じられているなら、この先の話が役に立つかもしれません。
何が起きているのでしょう
睡眠の研究者たちは、こうした状態を**オルソソムニア(orthosomnia)**と呼ぶようになりました。「正しい」と「眠り」を意味する言葉を組み合わせたもので、完璧な睡眠データを求めるあまり、かえって眠りが妨げられる状態を指します。正式な診断名ではありませんが、睡眠トラッカーが広く使われるようになり、睡眠外来でもよく話題になる考え方です。
なぜこんなことが起きるのでしょうか。
- 眠りは、頑張るほど遠ざかります。 眠りは意志で入れるスイッチではなく、緊張がほどけたときに自然に訪れるものです。「眠らなきゃ」と力むほど、体はむしろ覚醒モードに入ってしまいます。
- 数字は思ったほど正確ではありません。 手首の機器は、主に体の動きと心拍から睡眠段階を推定しています。病院での睡眠検査と比べると、深い睡眠やレム睡眠を見分ける精度には限界があることが知られています。
- スコアが実感を上書きしてしまいます。 実際にはそれなりに眠れていても、低い数字を見ると疲れを感じ、その不安が次の夜に持ち越されます。不眠に長く悩む人によく見られる「眠りへの心配 → 緊張 → 寝返り」の悪循環が、機器によってさらに強まることがあります。
つまり問題は機器そのものではなく、数字が自分の体の感覚より大きな声を持ってしまったことなのかもしれません。
今日からできること
1. 朝はスコアより先に、体に聞いてみる
目が覚めたら、アプリを開く前に「今、体はどんな感じ?」と感じてみましょう。すっきり度を自分で1〜5点で採点し、そのあとで機器を確認しても遅くはありません。自分の感覚を基準にする感覚を取り戻す第一歩です。
2. 1週間、スコアの通知をオフにする
朝のサマリー通知やスコア画面を、しばらく非表示にしてみましょう。記録はそのまま残るので心配はいりません。数日たつと、スコアを見ない朝が意外と穏やかだと気づけるかもしれません。
3. 一晩ではなく、流れで見る
一晩のスコアは天気のように上がったり下がったりするものです。どうしても見たいなら、月に一度、週の平均をざっと眺める程度で十分です。一晩眠れなかったくらいで、健康は損なわれません。
4. 眠れないときは、いったん布団から出る
横になって20分ほどたっても眠れず焦ってきたら、別の部屋に移って照明を落とし、静かなことをしてみましょう。紙の本や穏やかな音楽など、画面を見ない過ごし方がおすすめです。眠気が来たら布団に戻ります。布団を「頑張る場所」ではなく「休む場所」として脳に覚え直させる方法です。
5. 機器より、基本の習慣に目を向ける
毎日だいたい同じ時間に起きる、朝の光を浴びる、夕方以降はカフェインを控える。こうしたシンプルな習慣のほうが、スコアよりずっと大きな力を持っています。数字を上げようとするより、体がほっとできるリズムづくりに気持ちを向けてみてください。
こんなときは助けを求めてください
眠れない日が数週間以上続いている、日中の疲れや不安で日常生活がつらくなっている――そんなときは、一人で抱え込まなくて大丈夫です。いびきがひどい、寝ている間に呼吸が止まっていると言われた場合は、睡眠の専門外来を受診してみるのもよいでしょう。医療機関や心の専門家、お住まいの地域の精神保健の相談窓口が力になってくれます。気持ちが追い詰められているときは、ためらわずに地域の緊急番号や相談ダイヤルに連絡してください。
今夜のスコアが何点でも、あなたは十分に頑張っています。眠れない夜の心配ごとも、こころがそばで静かに聞いていますね。